1. MONDO TV トップ
  2. MONDO TVクラブ
  3. 密着!モンド麻雀プロリーグ観戦記
  4. 第16回モンド杯
密着!モンド麻雀プロリーグ観戦記

第16回モンド杯決勝戦観戦記 文:鈴木聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)

<第16回モンド杯決勝進出者>

山井 弘 (日本プロ麻雀連盟) ※前年度優勝
村上 淳 (最高位戦日本プロ麻雀協会) ※前々年度優勝
小林 剛 (麻将連合μ)
井出 康平(日本プロ麻雀連盟)
以上の4名で2半荘を打ち、合計点で優勝が決まる。

▼▼▼▼▼1回戦▼▼▼▼▼
起家から、山井、村上、井出、小林。


【持たざる者】

▼▼東1局▼▼ドラ

井出は、勝ち続けるしかない。
2年前、野口恭一郎賞受賞をきっかけにモンド杯への出場権をつかんだが、他に特筆すべき獲得タイトルもなく、プロ連盟のリーグ戦でもCリーグに甘んじている。
最前線で活躍するためには、勝ってモンド杯に出場し続けるしかない。
そんな思いで、3期連続の決勝進出。
モンドは、井出の居場所であり、現時点で井出の誇れるすべてであると言って差し支えないだろう。

そんな井出の思いが通じたか、開局と同時に好配牌を授かり、無駄ヅモなしで4巡目に高目三色かドラのリーチとなった。
 ドラ

押し返していったのは、オフェンスマスター山井。
山井はまっすぐ押し進め、11巡目にテンパイを果たす。
 ツモ

リーチを宣言し、しっかりとを押し切って放銃する。

 ロン ドラウラ

井出が山井のリーチ宣言牌を捕えて5200を先制した形だが、こうなると怖いのはむしろ山井だ。
まっすぐ押し返してリーチ宣言牌で放銃した結果が、最安目でウラも乗らず。
「打てている。ただ、まだ少し状態が悪い」。
山井の心中としてはこんなところ。


【山井、渾身のヤミテン】

▼▼東3局2本場▼▼供託4000ドラ

井出31200 小林24000 山井18800 村上22000
リーチが流局する展開が続き、供託が4000点貯まっている。
供託を取るべく、我先にと動いたのはもちろん小林。


仕掛けて局面をリードするのを得意とする小林が、ここでも積極的に仕掛けていく。4巡目に白をポンして打とした。

その直後、ドラのを引いてテンパイしたのは山井。
 ツモ

点数状況的にも沈んでおり、ここは当然リーチ!・・・かと思いきや、山井はなんとヤミテンに構える。
すると、すぐに村上からが出て3900は4500をアガった。
 ロン ドラ

「状態がそこまで良いと思っていなかったため、1度ヤミテンでアガろうと思った」とのこと。
山井ならではの大局観である。

▼▼東4局▼▼ドラ

小林24000 山井27300 村上17500 井出31200
これで2着目まで上がってきた山井、ドラのをトイツで持って、7巡目に選択。


このような手牌では、が出ることに期待しない手順で打つようにしているという山井は、オタ風で1枚切れのを打ち、次巡ツモでテンパイを逃す。
 ツモ

しかし、ここからすぐにを引いてテンパイすると、タンヤオ三色のテンパイを入れていた小林からがツモ切られて8000をアガり切った。
 ロン ドラ

2局続けての鮮やかなヤミテンで、山井がトップ目に立つ。

【小林の門前】

▼▼南2局2本場▼▼ドラ

村上22600 井出30200 小林12900 山井34300
鳴きの印象が強い小林だが、この半荘ではあまり鳴けていない。
先行を許しているからである。
普段、小林は先行することが多い。
1000点でも2000点でも先行するところから入ることが多いのだ。
先行すれば、打点を追うことに縛られないから、鳴きが使える。
逆に先行を許したこの半荘では、打点を作らなければならないため、鳴きを控えるほかないというわけだ。

5巡目の西家小林。
 ツモ

として345の三色を目指すが、次巡に三色が崩れるを引く。
 ツモ

ここで打とし、イッツーかドラ受けに狙いを変更すると、次巡にツモでフリテンリーチ。


ヤマに2枚残っていたをツモって、2000・4000は2200・4200を決めた。
当然のことながら、小林は先行を許したときに必要となる高打点の手牌構築力も高い。
だから今まで、決して打点が高いわけではない仕掛け主体でも勝ち続けてこられたのである。

【後手を踏んだ村上の意地】

▼▼南3局▼▼ドラ

井出28000 小林21500 山井32100 村上18400 
小林とは対照的に、鳴くことが極端に少ない村上は、先行を許すことが多い。
そのため、逆転トップも日常茶飯事である。
ここでも、山井の6巡目リーチに対し、村上が7巡目にドラ待ちチートイツで追いつくと、ノータイムでリーチといった。


しかし、村上がすぐにを掴んで山井に8000放銃となる。
 ロン ドラウラ

▼▼南4局▼▼ドラ

小林21500 山井41100 村上9400 井出28000
それでも諦めない村上は、オーラスも10巡目にテンパイ。
 ツモ

逆転に必要な567の三色を狙っていたが、こうなっては仕方なし。
切りリーチといった。 すると、数巡後に小林からアガリ牌のが放たれる。
をツモったとしてもウラが2枚以上乗るパターン以外では着順アップが見込めないのだが、村上はこのを見逃し。
2戦目に向け、3着目の小林のみから点数を削ることより、少しでも上位との差を詰めることに照準を合わせた。
そしてをツモると、アガリを宣言する。
 ツモ ドラウラ

ウラも乗らず、1000・2000。
「大して変わらないじゃないか」と思われる方もいるかもしれない。
しかし、これが村上の意地であり、村上の普通でもある。
その手のMAXをアガり、少しでも多く得点する。
村上の攻撃はいつだってシンプルだ。

山井50.1
井出 7.0
小林 ▲20.5
村上 ▲36.6


▼▼▼▼▼2回戦(最終戦)▼▼▼▼▼

起家から山井、村上、小林、井出。

【勝利への執念】

昨年の決勝に敗れ、井出は自身のブログで語った。
「勝ちへの執念が欠けていた」
その執念の不足分が井出をふわっと前に押し出し、結果として相手の攻撃に捕まった。
しかし、今回の井出は違う。
たぎる思いを胸に、自らの意志で前に出続けている。


▼▼東1局▼▼ドラ

東1局、井出は10巡目にテンパイを果たす。


ヤミテンに構えると、ここから局面が一気に動いた。
まずは、村上が仮テンのカンからを引いて、12巡目に高目三色のリーチ。


は4枚生きている。

早々にドラを打っていた小林も、フリテンのを引き戻したところで、打点との折り合いがつき、すぐに追いかけリーチ。


この2軒リーチを受けた井出の13巡目。
 ツモ

は村上の現物だが、追いかけリーチの小林には無スジ。
安牌ならば、と3枚もある。
巡目もちょうど終盤に差し掛かり、押しにくいところ。

しかし、井出はを強打し、斬り込んだ。
このときの思考を、井出は下記のように語った。
「ドラ切りが早い小林さんは、(役ありテンパイになる可能性が高く、さほど高打点にもならないのではないかということが想定できるため)現物待ちならヤミテンが本線だと思ったので、くらいは押しました。感覚的には、待ちはソウズでぶつかり合っていると感じていたので、相当危険な牌を引くまではいくつもりでしたね」
なるほど。確かに思考はわかるが、実際に上記読み通りにで斬り込めるかどうかは別の話。充実した稽古がうかがえる。

そして、次巡に小林がを掴み、井出が2軒リーチをかわす。
 ロン ドラ

こういったかわし手の鋭さは、今までの井出にはなかったように見えた。

▼▼東4局▼▼ドラ

井出27300 山井24400 村上23400 小林21600
オヤ番でもそうだ。
村上から6巡目リーチが入る。


これを受けた11巡目のオヤ番の井出。
 ツモ

このとき、村上の河がこちら。
(リーチ)

ドラもなく、守備に回るならはすべて通る。
また、押し返すにしても、いったんスジのを打つ手順も十分ある。
しかし、井出はこのを迷いなく勝負し、次巡にを引くとも押してリーチ。


で村上に放銃の可能性もあったところを回避し、反撃に転じた。


2軒リーチに対し、小林もここからをチーして応戦。
2人に無スジのを勝負して3900のテンパイを組む。
 チー

しかし、次巡に小林がも掴んでしまい、井出に2400。
 ロン ドラウラ

井出がまたも3軒テンパイを制した。

【小林が優勝への道を切り拓く】

▼▼東4局1本場▼▼ドラ

井出31100 山井27300 村上22400 小林19200
この半荘ラス目になってしまった小林だが、このまま引き下がるわけにはいかない。
 ツモ

11巡目にテンパイを果たす。
234の三色が崩れるが、タンピン確定なら妥協点。
でリーチにいった。

これに対し、またも押し返した井出が14巡目にを引いて追いかけリーチ。


打牌にも力が入る。
仮にこの手を高目でアガることができれば、優勝にかなり近づく。
今まで以上に力が入るのも当然である。


この勝負所を制したのは小林。
 ツモ ドラウラ

1300・2600は1400・2700で、ひとまず原点付近まで持ち点を回復する。

▼▼南1局▼▼ドラ

山井25900 村上21000 小林25700 井出27400
すると、次局にも小林がリーチ。

1回戦トップだった山井のオヤ番ということもあり、これをツモって山井にオヤかぶりさせると、優勝がぐっと近づく超勝負手だ。
8巡目リーチの時点ではヤマに1枚生き。

これに対し、ドラがトイツの山井が押し返し、12巡目にテンパイ。
 ツモ

切りのリーチで勝負に出る。
こちらはヤマに5枚生き。
山井にこれをアガられると、小林はトータルで山井をまくることがかなり難しくなる。
小林1枚vs山井5枚の勝負の行方は・・・

 ロン ウラ

なんとすぐに山井がを掴み、小林が5200の直撃に成功。
このアガリで山井がラスに落ちるため、2回戦目のトップ目に立った小林がトータルでもトップ目に躍り出た。
これは村上にとっても良い展開。小林のおかげで理想の並びができ、この着順のまま小林をまくればほぼOKという状況になっている。

【自らの意志で前へ】

▼▼南2局1本場▼▼供託2000ドラ

村上21500 小林32400 井出25900 山井18200
前局は小林・村上の2軒リーチが流局した1本場。
接戦のため、供託2000点が大きい。

西家井出の2巡目。


1枚目のをポンして打とする。
遠い仕掛けだが、ここから先はすべてが勝負局。隙あらば全部アガるぐらいのつもりで戦っているはずだ。
すると、これが意外にも早く、4巡目にポンのテンパイを果たす。
 ポン ポン

なかなかアガれないまま10巡目、前に出てきている山井から白が手出しされた。
ピンズの上が場に高く、アガリを取るなら白をポンして単騎を探した方が有利かもしれない場面だが、白をポンしても1000点が2600点になるだけであるし、何より守備ができなくなるため、ポンしない打ち手が圧倒的に多いだろう。
しかし、井出は、このをポンして単騎に受けると、次巡に1枚切れの東単騎へ待ち替えした。
 ポン ポン ポン

「テーマとしては完全にアガリにあり、かなり無心にアガリに対してアンテナを立たせていた結果、ペンと心中するのは悔いが残ると思い、動くことを決意しました。ここ一番という勝負所だったので、リスク回避は二の次ですね」 井出はこのように語った。

井出の仕掛けに対し、同巡に山井もリーチで応戦する。


一発目に1枚切れのを引いた井出。
は山井が直前に打っていて絶好の待ちであるため、へ待ち替えする。
すると、次巡に井出が引いたのは、ドラまたぎのだった。  ポン ポン ポン ツモ

は無スジで生牌だが、をポンしてまでアガリに向かったことを考えると、アガリやすさを最大限に追ってを勝負するのが一貫性ある選択だろうか。

しかし、井出は打
「山井さんの待ちとして、かなりが濃いという感覚があったので、に受け替えました。結果を知ってから言うのも後出しみたいで嫌ですが、次にを引いたら本当にオリていましたね」
これが、井出が鍛え上げた感覚なのだろう。まったくもって恐れ入る。

すると、ラス牌のが続けて井出の下に舞い降りた。
 ポン ポン ポン ツモ ドラ

700・1300は800・1400。
仮に、井出が白をポンしていなければ、イーシャンテンからと連続で引いた山井がこんなマンガンをアガっていた可能性が高い。
 ツモ(一発)

もしこの手を山井がアガっていたら、ほぼ山井の優勝が決まっていただろう。
井出の前へ出る意志と感性が、山井のアガリを防ぎ、自らのアガリに変えた。
これで微差ながら2回戦のトップに立った井出は、トータルでも小林をかわしてトップ目に浮上。

▼▼南4局▼▼ドラ

井出31400 山井18400 村上19600 小林30600
そして、オーラス。
条件は下記の通り。

<小林>村上をラスにせずにトップをまくる。つまり、村上からの出アガリのみできないが、それ以外なら何でもアガれば優勝。
<井出>ラスオヤであるため、アガリ続けてある程度小林を引き離す。
<山井>井出を2着に落とし、自身が3着に上がればよいため、ツモなら1000・2000。出アガリは、井出からのみ狙う。1300以上の直撃が必要だ。
<村上>3倍満ツモ条件のため、基本的には役満ツモを狙っていく。

各人が条件に向けて手牌の方針を決め始めた7巡目、井出が早くもテンパイを果たす。


これをヤミテンに構えると、9巡目にに振り替わり、待ちでリーチ。

井出から供託が出たため、山井は小林以外からならアガれるよう条件が緩和された。
その山井がを押して10巡目テンパイ。
 ツモ

ここからも押し、井出の現物になっているカン待ちテンパイを組む。
12巡目には無スジのもツモ切り。
すると、直後に小林が3枚目のをツモ切りするが、小林からはアガれない。
「そこからはアガれない・・・」
さらに次巡には、小林が4枚目のも手出しする。
「だからそこからはアガれないんだって!」
これでが4枚切れ、山井のアガリ目がなくなった。

あとは井出vsヤマの勝負。
はこの時点でヤマに4枚。
井出が右腕に思いを乗せて牌を引く。
「いろっ!いろよ!!!」
そして、井出が待望したその牌は、最終手番のわずか1つ前、17巡目に舞い降りた。
 ツモ ドラ

祈るようにウラドラをめくる井出。
このウラドラは相当重要だ。
1枚乗ればかなり大きく条件を突きつけることができる。
「乗れって!マジで乗れって!」

めくられたウラドラ表示牌は
ウラは乗らず、1300オール。
決着は次局に持ち越された。

▼▼南4局1本場▼▼ドラ

井出35300 山井17100 村上18300 小林29300
条件は下記のように変化。

<井出>小林と4000点以上離れたため、流局ノーテン宣言が可能。ひとまずはアガリを目指すが、終盤勝負になった場合、ノーテン宣言に向けた打牌をしていくことになりそうである。
<小林>井出をまくればよいため、井出から3200以上、山井から6400以上、村上からだと山井の着順が上がるためハネマン以上、ツモなら1000・2000。
<山井>井出から6400以上、小林から6400以上、村上からハネマン以上。ツモならハネマンが必要。
<村上>変わらず3倍満ツモと、最も厳しい条件である。

【「リーチの村上」のリーチ】

そんな条件下、11巡目にリーチの声が上がった。
「リッチ!」
なんと村上からのリーチ宣言である。
同卓者からすれば「嘘だろっ!?」だ。
絶対に諦めない。
そういう当たり前のことができる村上に、こんな手が舞い降りた。
 ドラ

西家の村上は、高目のをツモればきっちり3倍満で逆転である。
はこの時点で2枚ヤマに生きている。

【「鳴きの小林」のリーチ】

そして、16巡目、ついに小林が追いついてリーチ。


村上から供託1000点が出たため、村上からは一発かウラ1条件。
山井からも一発かウラ1条件。
井出直撃、ツモはOK。
はヤマに1枚生きている。
残りは1巡。
そういえば、この決勝、小林は1度も鳴いてアガっていない。
最初にマイナスを背負う展開だったからというのももちろんあるが、自分の型ではなくともここまでの勝負に持ってくる。
ただ、小林は「良い勝負まで持ってきた」ことに意味がないことを知っている。
勝ちにしか意味がないのだ。
「絶対アガり切る」
門前主体の派手な麻雀と違い、勝つことでしか強さを証明できないスタイルを選んだ小林は、こういう勝負所を幾度となくアガり、勝ち続けることで己の存在を世間に認めさせてきた。
そんな小林の思いは届くのか。

村上は、祈るように最後のツモをめくった。

最終ツモは、

小林は、いつも通り淡々と最後のツモをめくった。

最終ツモは・・・

その瞬間、井出の目にはもう涙がたまっているように見えた。
それがこぼれ落ちないように、必死に最終手番を打ち切り、そして手牌を伏せた。

優勝 井出康平

「麻雀傾奇者」

井出のキャッチフレーズである。
傾奇者とは、異風を好み、派手な身なりをして、常識を逸脱した行動に走る者たちのことをいうようだ。
多くの打ち手が押せなさそうなときに押してアガり切り、多くの打ち手が鳴けなさそうなときに鳴いてアガり切る。
正に傾奇者にふさわしい勝ち方だった。
対局後、井出は今決勝のことを次のように振り返った。
「今回の決勝は、自分のイメージする大局観をある程度体現できた感があります。予選を通して、他でもない自分が満足する内容で戦えれば悔いはないという構えで入れたのは大きかったですし、そこが一昨年、昨年から成長したところかなと。TV対局的には面白い内容がベストなんでしょうが、やはり目指すは圧倒的勝利!そこを目指して精進したいと思います!」

表彰式で、涙を流しながら、最後は井出らしく締めた。
「やっぱおれ、強ええな!」

かっこつけすぎだ。
だから井出康平はかっこいい。
圧倒的勝利に向け、井出は稽古に励む。

千両役者よ、傾(かぶ)け、傾け、もっと傾け。





文:鈴木聡一郎プロ(最高位戦日本プロ麻雀協会)